税務調査ウラ話BLOG

調査ウラ話

業態の確認/喫茶店 その1

調査官は、喫茶店の調査を担当することになりました。喫茶店は、申告が適正に行われているか、帳簿を見ても比較対象物がないので、現金業種の中でも特に難しいといわれています。
一般的には、コーヒーの粉の仕入れ量から売上を推計することとなります。
調査官は調査対象の喫茶店がどのような営業を行っているのか、日頃の状況を確認することにしました。
平日、休日を問わず、また時間帯を変えながらお店に出向き、テーブルの数や1テーブル当たりの回転数、レジの状況、おしぼりやコーヒーの粉の仕入れ時間帯や仕入先など時間をかけて地道に確認していきました。
古い話で恐縮ですが、映画「マルサの女」で宮本信子がお客の数とりを行っていた場面を思い出してください。
調査官が特に重点を置いたのがレジスターの管理状況でした。
最近、混んでいる時間帯では、レジの箱を開きっぱなしにしてレジを打たず、お客さんにお釣りを箱の中からいきなり渡すという光景が多々見受けられました。
後でまとめて売上伝票からレジを打つのでしょうか。怪しいですね?

余談になりますが、ある調査官が、調査日の前日の売上伝票とレジのロールペーパーからレジの打ち直しによる売上除外の現行犯を捕まえたそうです。何で分かったのでしょう?
売上伝票は精算が済んだ順に刺していきますので、一番下は最初のお客さんで、一番上は最後のお客さんということになります。
レジのロールペーパーはどうでしょう。ロールペーパーの一日分は、売上伝票の逆で機械上、一番上の印字が最後のお客さんなのです。
調査官は、売上伝票の束とレジのロールペーパーの照合を行いました。
すると、売上伝票の最初のお客さんがロールペーパーの一番上に印字されているではありませんか。つまり、売上伝票をスタンドから抜いて、途中で売上伝票の一部を除外した後、そのまま一番上にある売上伝票から打ち直してしまったのです。
物理的に考えても、打ち直ししか考えられません!
経営者も観念し、売上の除外を認めたそうです。

話しを戻しますと、調査官は調査対象の喫茶店は終日同じ売上伝票を使用しているか。
レジの交替ははいつか、特定の時間帯(お客が集中する昼休みなど)のレジはどうしているかなど、毎日細かく念入りに観察を行ったのです。
これを業界では「内観調査」といいます。
また、喫茶店を数件ハシゴし、コーヒーの濃さを体で覚える勉強もしました。
コーヒーの粉1キロ当たりドリップ方式で何杯のコーヒーを淹れられるのか。110杯、120杯、130杯?行きつけの喫茶店にもご協力いただきました。
慣れてくると、ある程度当たるようになるのだそうです。さすが、プロですね。
さあ、下準備が整いました。いよいよお店で調査開始です。調査展開やいかに?

業態の確認/喫茶店 その2

調査官はお店に臨場し、さっそく責任者に当店のコーヒーはドリップ方式か、サイフォン方式かの確認を始めました。
ドリップ方式とのことなので、まずコーヒーを立てている現場を見せてもらうことにしました。これを業界では「現場確認」といいます。
ちょうど立てるところだったので、それを見ながら調査官は矢継ぎ早に質問をしています。

調査官当店ではコーヒーの粉1kg当たり何杯のコーヒーを淹れていますか?
責任者約100杯というところですね。
調査官金属のやぐらを組んで、ろ紙を上に巻き、コーヒーの粉をその中に入れて熱湯を注ぐ方法ですか。通称ドリップバケツで受けるのですよね。
責任者その通りです。詳しいですね。
調査官閉店時間にコーヒーが余ってしまった場合はどうされますか。
責任者廃棄処分にしています。
調査官そうですか。以前、同業の喫茶店に調査に伺った際の話しでは、翌日に沸かし直して流用しているのが通常だと聞いたことがあるのですが。
責任者・・・・・。

調査官はドリップで使ったドリップバケツを持ってきてもらいました。よく見るとバケツの内側に渋のような線がくっきり残っています。
毎日、同じ分量をとっているので跡がついているのです。
実際に計測してみたところ、コーヒーの粉1kgから約140杯がとれました。
開差は約40杯、単価が500円とすれば1回分のドリップで約2万円の売上計上もれが想定されます。
一日何回ドリップしているかで、コーヒーに関する売上計上もれの概算が把握できることが分かりました。

余談ですが、淹れたてのコーヒーと沸かし直しのコーヒーの見分け方があるのかをご存じですか。
淹れたての場合、ミルクをコーヒーカップの縁に沿って流してみると表面に薄い膜ができ、ミルクは沈みません、沸かし直しはドボンと落ちます。
調査官は別の日の開店直後に入店し、これを行ったところミルクはすぐに落ちました。
以上の事実を責任者に説明し、売上計上もれの事実を認めるよう根気よく説得したところ、根拠がここまで明白なことから観念し、売り上げ除外のすべてを調査官に話したそうです。
周到な事前準備と徹底した実態確認の成果が実を結んだ事案でした。
ちなみに、現金商売の調査は帳簿調査では実態を把握するのが難しいので、レジの管理状況等を営業時間帯や曜日ごとに観察するため客として店舗に臨場し、情報の収集を時間をかけて行うのが必須となっています。
実際にあった事例としては、特定の時間帯だけ売上伝票の色を変えており、実地調査の段階では、この伝票は破棄されていたため、現物がありませんでした。